2009年4月8日水曜日

MBA流交渉術の基本



どうも交渉術と聞くと、手練手管で人を騙すような響きもあって、あまり重要視していなかったのだが、最近、社内各部署に対し、仕事を割り振る役割が多くなり、どうやって主体性を持って取り組んでもらうかが課題だと感じている。特に、従来から決まっている役割以上のことを拒否する雰囲気が蔓延している組織が大半なので、ただ単に依頼するだけでは何も動かないのが現実。また、以前のプロジェクトでベンチャー企業と協業に向けた交渉を色々やってきたが、失敗に終わってしまった苦い経験もあり、 またチャンスを掴んだら、次こそは成功したいと考えていた。

ビジネススクールで体系的に教えていると知り、まずは基本をおさえる意味で読んでみようと手に取った。

・本書で扱う「交渉術」とは、いかにして相手を説得したり恫喝して自分の都合のよい合意をとりつけるかというテクニックのことをさすのではない。本書は「交 渉」というものを一種のゲームとして構造的にとらえ、それを理解したうえで、交渉相手との間でみずからの目的を最大限達成するための合理的アプローチを示 すものである。

・交渉とは二者または三者以上が、ある一つあるいは二つ以上の問題で合意に到達するための科学と芸術であり、それは当事者間の「情報交換とコミュニケーションのプロセス」である。

・交渉の目的は、すべての当事者が可能な最大の共同利得を達成することである。

・「MBAの交渉術」とは、企業間で繰り広げられるビジネス交渉を対象としており、じつはこうした組織間の対外交渉と組織内の内部交渉の複雑な絡み合いの中で、いかにして企業にとって最良の交渉結果にたどり着くべきかという課題に帰着するのだ。






-----
以下は気になった点のメモ

■交渉のパターン
 ・パイの分割型交渉(ゼロサム交渉)
 ・利益の交換型交渉
 ・利益創出型交渉
  交渉の過程で交渉者同士が協力して対象となっているパイ、つまり分け合うべき交渉条件の価値をのものを拡大するような交渉

利益創出型交渉において、当然重要なのは、交渉者同士が対立して分け前を主張することではなく、いかにすれば全体のパイを拡大できるかという観点からおたがいに協力することである。相手の立場や強み、弱みを理解し、自分が貢献できること、できないことを確認しながら、共通の利害を 認識し、共通の利益を最大化することで、はじめて利益創出型交渉は成立する。(中略)ビジネス交渉の醍醐味は、このような利益創出型交渉を交渉者同士でいかに構築し、当初期待された利益をどこまで拡大してお互いの利益を最大化し、Win-Winの交渉結果をもたらすかということにある。

■交渉力の源泉
 ・時間制約(維持コスト)
 ・非対称な立場
 ・情報非対称性

■交渉のステップ
 1.交渉の準備
   ・自分の交渉目標を設定する
   ・自分のBATNA(他の最良の選択肢を設定する
    (Best Alternative to Negotiated Agreement)
   ・相手の強み・弱みを徹底的に調べる
   ・相手の交渉目標を想定する
   ・相手のBATNAを想定する

 2.交渉の開始
   ・交渉を相手に提案する
   ・相手にアポをとり、交渉を設定する
   ・相手が関心を持っているか確認する
   ・自社とビジネスの概要を紹介する
   ・交渉の目的と想定されるメリットを説明する

 3.交渉の実行
   ・相手の情報を可能なかぎり引き出す
   ・交渉前に想定した相手ポジションを検証する
   ・組み立てた交渉のシナリオを再検討する
   ・交渉相手との人間関係を構築する
   ・ファーストビッド(土台となる提案)をする
     メリット:
      ・相手の反応を見ることで本音を引き出せる
      ・交渉の枠組みを支配できる
     デメリット:
      ・手の内を相手にさらけ出してしまう
      ・準備のために労力やコストがかかる

 4.合意の形成
   ・交渉内容を細分化する
   ・合意できる項目を積み上げる
   ・トップ交渉をアレンジする
   ・ほぼ条件をそろえた状態で決着へ持ち込む

 5.合意の実施
   ・最終契約書をまとめる
   ・契約書にサインする
   ・合意内容が社の合意を得られるよう根回しする
   ・それぞれの会社が内容について批准する
   ・最終合意をするまでに批准手続きを完了する

■交渉戦略のポイント
・プロセスをみずからリードする
  問題提起、争点の整理、合意条件の提案、解決策の提案をすることによって、交渉をリードし、優位に交渉を進めることができる

・積極的に情報開示する
  win-winの合意を目指しているというメッセージを相手に送り、みずから情報を開示することによって、相手も開示することが期待できる

・契約書のドラフトを作成する
  契約書のドラフトは、書かれたこと、書かれていないことのどちらも重要。そのデザインをみずからすることによって、交渉の主導権を握ることができる。


「日本のメーカが子会社を米国企業に売却する」という設定のケーススタディは、いきなり相手先に単独で訪問して失敗。その後、どうやって立て直すなど、意外と有意義だった。エピローグで「交渉とは、結局は人間が人間と対峙して行うアート(芸術)であるという言葉があるが、実際そのとおりというのが、さまざまなビジネス交渉を通じての筆者の実感である。」との記述もあった。最終的にはそうなのだろう。そこに至るまでにはまだまだ遠いが。

2009年3月15日日曜日

「上司」という仕事のつとめ方



「完璧なリーダーシップなんてありません!」とタイトルに掲げられ、また「はじめに」には、「巷にあふれる上司が手にする本は、(中略)、最終的には『もっと強くなれ、もっと有能になれ』とばかりに、上司としての完璧さを求めるようなものばかりです。」と記してある。





-----
以下は、気になった点のメモ

・リーダーシップとは「未来」を見せる力、マネジメントとは「今」を円滑に動かす力

・リーダーシップとは「人間的な魅力」で人を動かすこと、マネジメントとは、会社の「ルール」に則って人を動かすこと

・マネジメントは管理しやすい状態へと職場を進化させ維持すること

・マネジメントは「制度」「ルール」をもとにして人を動かし、リーダーシップはルールに縛られず、ルールを超えていくもの

・部下からの批判は、上司にとっての「勲章」。批判はあなたが何かをしたことの「証」。何もしていない人は、批判すらない

・「愛の反対語は、「憎しみ」ではなく「無関心」

・部下に尽くすという「リーダーシップ」。上の地位にある者が、第一線に指示をして仕事の仕方を変えさせるのではなく、第一線がやりやすいように仕事の環境を整え、彼らの自主的な改善を後押しする。サーバント・リーダーシップ。

・「部下は、力をもっている。”力がないからつけてやる”のではなく、”部下のもてる力を解放する”のだ」

・雄弁であるより、上司は「黙る力」をもつ(傾聴力)

・上司が体験すべき苦しさとは、部下に仕事を任せ、自分は手出しをせず、「結果を待つ」という生産的な苦しさ

・「矛盾」とは、新たなものを創造する大きな「力」

・強さとは「固い」ことではなく、右に左に揺れる「しなやかさ」

・恐れるべきは失敗ではなく、挑戦しなくなること

・「平等」と「公平」は違う

・心が疲れるとは、心が柔軟性を失い、固くなっていくこと

・挫折や逆境のなかでしか、つかめないものがある

・弱い犬ほどよく吠える

・言葉が言霊になる。アナログな部分を大切にする「時代遅れな上司」ほど部下をうまくまとめあげ、成果を出す

・社員の価値を完璧に評価できる人事制度はない。あるのは、社員の価値を完璧に評価しようと努力する制度だけ

・怒りは、自分の正当性を証明するために使われることがある。実は、心の底で助けを求めているのかもしれない

2008年12月14日日曜日

こんな幹部は辞表を書け


初版は1968年。2006年に新版として刊行されたもののようだが、40年の時を経ても古くささを感じず、今でも充分に有益な内容に富んでいると思う。

マネージャに必要な資質として、著者は以下の7つを挙げている。

・目標指向力(自分に荷物を負わせられるか)
・方法発見能力(困って困って困り抜け)
・組織能力(部下が"困る”ところを探せ)
・伝達能力(即座に、こまめに、全部の個所に)
・動機づけ能力(部下を不完全燃焼させるな)
・育成能力(どれだけの根気があるか)
・自己革新能力(自分を伸ばすのは自分しかいない)



-----
以下は気になった点のメモ

■幹部のタイプ・定義
最初は、幹部のタイプを3つ挙げている。
第1G:毎日の仕事に追われ、その仕事に追いつけないでフーフー言っている人たち
第2G:仕事に追いついてはいるが、自分の力を賭けて達成しようという自主的な目標がない人々
第3G:自分で自分の部門の問題点をつかみ出し、「いつまでに」、「どんな状態に」もっていこうと決心をして、その目標の達成を追求している人

もちろん、第3Gであるべきだというのが主張であり、「人から指図されて動く人ではなく、自分の担当の問題をつかみ、歴任する一つひとつのポストで何事かを成し遂げていく人」と幹部を定義している。

■幹部の資質
「問題」は創るもの、という節で紹介されていた幹部選別法は興味深い。マネージャ全員にあるひとつの質問を発するだけだという。「きみの担当分野で、どんな解決すべき問題があるか」。この質問に対する反応によって、相手がどれくらいの問題意識を持っているのか確かめるため、という。
[落第]
・返答に窮する者
・自分の担当分野の問題を言わず、とうとうと会社全体の問題を述べる者
・自分の部門について話すのだが、それが非常に抽象的なもの
[合格]
・問題を明確に具体的に述べた者、あるいはその原因は背景を的確に指摘したもの
○その問題に対する対策や目標に関し、明快な解決の構想がみてとれた者
◎さらに、当面の問題と目標、2~3年たったら必ず起こると考えねばならない問題を述べた者

■”できない”で省略されているもの
・「今までの方法では」できない→今までと違う方法を探せばよい
・「今すぐには」できない=今すぐ100点は取れない→すぐ着手して他社との差を開く
・「自分一人では」できない→誰の力を使ったらできるかを考える

■塩漬けと能力飽和
・あまりにも専門家すぎると、他人を使って仕事をするには不向きとレッテル。ベテランで頭が固くなり、何でも自分の思い通りに運ばないと気が済まないようになってしまった
・マネージャの保身により、異動を頑強に反対したことも原因
・能力向上曲線飽和後の放置により、自信過剰になり、変化への勇気を失い、「殺される」

■部下の仕事を応援する
・部下を窮地に追いやらないように、バックアップする
・一番大きなところと、一番小さなところの両方をしっかりつかみ、真ん中は部下に任せて思う存分やらせる
・「彼がこれをやるとしたら、いったい先で何が起きるか」を見通し、先手を打つ
・仕事のなかの最も難しい部分、最も嫌な部分をひっかぶり、みんなの先頭に立って突破口を開く

■第一線の実情が分からない中で決断する方法
・とにかく一度みんなはねつけ、再び持ち出してくるかどうかで、本気度を判断
・細かい質問を浴びせ、徹底的に研究したのか、本当に真剣に考え抜いた上での提案か見抜く
・あらゆる角度から比較検討されたかどうか確かめる

■忙しく見えては落第
・部下がコミュニケーションを遠慮しないようにするための手段
・常に悠迫らざる態度で、余裕たっぷりに見せる

■玉を磨く
・常に未経験の分野や、いままで考えなかったような高い目標にアタックさせる
・部下に力をつけるのには、短気は絶対に禁物
・原則として目標だけを与え黙って見守っている、ギリギリまで待つ、何とか自力で成し遂げられるように援助する
・やむを得ず自分が直接収集する羽目にに陥ると、部下に挫折感を与えてしまう

■成長循環路線
①まず、絶えず未経験の問題にぶつかり、
②これを回避せずに正面から取り組み、
③これを曲がりなりに達成し、あるいは事態を切り抜け、
④これによって、達成の喜びとともに自信を深め、
⑤さらに未経験の問題に挑む


今でも、6年半続けた仕事を変えようとした判断が果たして正しかったのか迷う時があるが、今までを総括でき、改めて自分の進みたい道を確認でき、また別の分野での「常識」を知り、複数の幹部に仕えて、そのよさ/悪さから、マネジメントの一端を垣間見られたことを考えれば、よかったのだろう。成長曲線も飽和していただろうし、仕事の進め方も惰性になっていたし。

数年経ったときに、以前の上司や関係者から、成長したと言われるよう、今の仕事から最大限学び取りたいと思う。