2007年3月10日土曜日

リーダーを育てる会社 つぶす会社

大企業向けの管理職向けの本である。係長、課長、部長、事業部長、事業統括役員、経営責任者とリーダーの6つの段階とその間における転換点でどう変化していくべきかを述べている。基本的には、実務は一般社員が行い、リーダーはその成果を挙げやすい環境をどう整備していくか、彼らのモチベーションを向上させ、より質の高い成果を引き出し、成長を促すにはどうすべきか、を解説している。そして、これらのリーダー職は、一段一段経験を積み、自らを変化させ続けることで、リーダーそのものを育て、企業としてどの段階でも質の高いリーダーを確保し、永続的成長を図るために「パイプラインモデル」として設計・運用していくべきだという。


リーダーは各々の転換点で以下の職務要件を新たに習得しそれまでのやり方を捨てよという。

1.スキル(新しい責務をまっとうするために必要な新しい能力)
2.業務時間配分(どのように働くかを規定する新しい時間枠)
3.職務意識(重要性を認め、注力すべきだと信じる事柄)

第1転換点(一般社員から係長)では、仕事を「する」から他の人にうまく仕事を「させる」に変え、管理業務、コーチング、育成に意義を見出す、とある。

第2転換点(係長から課長)では、純粋な管理職となり、個人業務を離れ、係長の選抜、戦略的事項への支援が新たに加わる。

第3転換点(課長から部長)では、他の部長とのチームプレー、経営リソース確保、事業戦略と個別戦略の摺り合わせ等が求められ、3年程度の中期的視野・最先端を意識を持ち、特にリーダーとしての「熟練性」がいきなり問われる。この段階で戦略思考が欠落していたり不慣れな業務を避けたり、実務者へ介入するような事態が散見された場合、部長の資質がない証拠だとも。

第4転換点(部長から事業部長)では、様々な職務機能を統合し、損益や長期的成長の観点から全てを考え・判断すること、短期と長期のバランスを高度に保つことがミッションとなる。大きな裁量をもち、不慣れな職務分野もいきなり所掌範囲になる。これに対処していくためには、組織構造、チームプレー、間接部門の活用、利益構造の把握等が欠かせない。

第5転換点(事業部長から事業統括役員)では、他者の成功を喜べることが必須。経営リソースの配分の戦略の分析ができ、事業部長を育成し、ポートフォリオ戦略を描き、コアコンピタンスを保有できているか広い目で見極める必要がある。地域・業界・政界・慣例行事などを考慮しながら複数の事業を経営しなければならない。事業機会の探求は大きなミッションのひとつだ。

第6転換点(事業統括役員から経営責任者)では、長期的な視点と洞察力をもち、長期的成長と四半期毎の目標達成を両立させるためのしくみ開発も求められる。そして外部の変化に敏感になるとともに、個別の商品や顧客などの個別の問題から離れ、全体感を持つ必要がある。


最も大切なのは、第1転換点であると説き、以下の3つの責務が求められるという。
1.仕事の定義とアサインメント
2.部下に対するサポート
3.関係構築


リーダー選抜のための見極め方法として、成長段階(習熟→成長→変化)軸と、成果(期待以下→期待通り→期待以上)軸でのリーダーシップ育成マトリクスを活用すべきという。これに個々の候補者を当てはめていくことで、次にどのような行動を取ってもらうべきかを判断していくものだ。

興味深かったのは、どの段階においても問題のあるリーダーは、転換点での変化を拒み(もしくは変化の必要性を認識できず)自分の成功体験にしがみついて行動するために、結果として部下の仕事を奪ってしまい、求められる職務を遂行できないだけでなく、部下のモチベーションを下げ、経験の機会を摘み、部下もその下の部下の仕事をせざるを得なくなるために、パイプライン全体が淀み、機能不全に陥ってしまうという点だ。もちろん業績不振に陥り、組織は荒れ、活力を奪われるだろう。どこかで見たことのある光景かもしれない。

本書を読んで、真似すれば全て解決するほど具体化もされてはいないが、このような視点を持つことで自らの行動指針に反映できればと思う。