2008年2月16日土曜日

はじめての課長の教科書

そもそも課長という管理職に期待されている職務とは何なのか。部長との違い、遭遇するであろう事態への対処策などが言及されている。

管理職というのはリーダーたる面とマネージャたる面を併せ持つ存在であるが、経営層は進むべき方向とビジョンを指し示し、組織全体を牽引していくリーダーシップに期待される面が大きく、逆に課長には部下の潜在能力を引き出し成果を挙げるというマネジメントに期待される面が大きいという。

そして扱う部下の特徴が、部長と課長では全く異なるという。部長の部下である課長は、そもそも管理職に登用されるような実力と実績を挙げた人材であり年齢的にも近いことが多い。課長の部下達は新入社員から定年間近なベテランまで年齢的にも幅広く、また実力もモチベーションも全く異なる人材に接する。そして部長の差配は予算の分配が主となるが、課長は部下の育成も心理状態も視野に入れ、より実力を伸ばせる仕事の大きさと難度で、適切にアサインしていくことが求められる。褒め方も叱り方も気を遣い、実力のある部下もやる気のない部下も個別に最適な方法で接していく必要がある。著者は野中郁次郎氏の「ミド ル・アップダウン」というマネジメント手法を引用していたが、課長に求められ、日本企業の競争力の源泉は、この課長に求められる資質だと説いていた。

そしてその課長の成功のカギは「無私」であり、部下の成功を心から喜べるかどうかであるという。そのためには自分が課長止まりであることを覚悟した時に初めて生まれるものだという指摘は、なかなか示唆に富んでいると感じている。



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以下は、気になった点のメモ

・課長は、年齢や能力に大きな幅がある部下を持たなければならない。部下・顧客・上司、3方向に意識を向け、利害を調整するのが課長の仕事である。

・課長は、部下を一人の人間として気に掛け、興味を持ち、熟知することで、部下のモティベーションを高め、成果につなげることができる。

・課長は、部下に徹底的にルーティン・ワークを教え込むことで、例外的な問題や事業機会を発見する仕組みを作り上げなくてはならない。

・課長は「重要な現場情報」を経営に引き上げ、経営ビジョンを現場に浸透させるナレッジ・エンジニアである。

・仕事に没頭する状態 5つの条件
 1.目的と価値が明確
 2.コントロールできる
 3.適切な難易度
 4.邪魔が入らない
 5.成功の基準明確

・課長の8つの基本スキル
 1.部下を守り安心させる
 2.部下をほめ方向性を明確に伝える
 3.部下を叱り変化をうながす
 4.現場を観察し次を予測する
 5.ストレスを適度な状態に管理する
 6.部下をコーチングし答えを引き出す
 7.楽しく没頭できるように仕事をアレンジする
 8.オフサイト・ミーティングでチームの結束を高める

・基本的に人間が3人以上集まっている集団において、政治が発生しないなんてことはない。子供の間にだって政治は存在するのだから、大人の社会が政治的になるのは当然。

・社内政治とは、利害が「限られた昇進ポストと予算」で対立する、複数の勢力による「権力争い、政争」である

・社内政治のルール
 1.社内のキーマンを知り、その権力範囲を知る
   ※キーマン=オフィシャルには決定権の及ばない数多くの議題に対し、影響力を発揮することに長けている人
 2.自分がキーマンにとって有用な人材になる
   ※彼らのことを気に掛け、望みを理解し、その評判を高めるような行動を心がけること
 3.いたるところで政敵をほめる
 4.自分がキーマンになることを目指す
   ⇒公式、非公式に多くの社内横断的なプロジェクトに献身的につながっていくことがキーマンになるための一番確実な方法

・リーダーシップの本質は、価値観や雇用形態を超えて、周囲の多くの人々から「この人と一緒に仕事をしたい」と思われること

・無私になる=どれだけ多くの仲間を助け、仲間からの信頼を集められたのかを誇れるようになれば、その人物は世界中のどこでも通用する

・仮に無駄だとわかっていても、それでも自社を変える努力をし、社内で改革のリーダーになるべき

・「その場で五感を総動員して取得した情報を、数行の文章に圧縮する能力」。これが重要なことをより多く記憶し、効率的なコミュニケーションをするために必要な能力

2007年5月7日月曜日

経営者になる 経営者を育てる

単なる管理者でなく、経営者とはどうあるべきか、最近興味を抱き、何冊か手に取っている。本書では、経営コンサルタントらしく、できるだけ要素分解し解説しており、体系的に理解しやすい。経営スキルとは天賦の才ではなく後天的に身に付けられるもの、という主張が根底にある。そして問題意識は、経営者不要の高度経済成長から、真の経営者が求められる時代になったにもかかわらず、それを担える人材が決定的に不足していることであるようだ。

いわゆるMBAカリキュラムで学ぶようなハードスキルだけでなく、ソフトスキルを重要視しているのは感覚的にも納得がいく内容。もちろん両方とも必要で高次元でのバランスが求められているのは間違いない。仕える上司への違和感を抱く時、このソフトスキルの不足である場合が多い。



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以下は気になった点のメモ

○経営者が実行すべきこと
1.自社の置かれている市場環境を正しく認識する
2.目標を決める
3.目標と現状のギャップを正確に認識する
4.ギャップを埋めて、目標を達成するための戦略・実行プランを立案する
5.社員に対して、目標、戦略・実行プラン、なぜそれをやり遂げなければならないのかを正しく伝え、目標達成に向けモチベートする(動機づける)
6.組織として、戦略・実行プランを実行する
7.プランの進捗状況・結果をモニターする
8.結果を解析し、必要に応じて軌道修正する

○経営者のスキルセット
・科学系スキル(足し算の能力=積み重ねられる)
 -マネジメント知識
 -ロジカル・シンキング

・アート系スキル(掛け算の能力=全てを備えなければ無意味)
 [ベースとしての必要要件]
 -強烈な意志
   ・事業において何が何でも結果を出すという意志
   ・源泉:高い志と責任感

 [個人として結果を出す]
 -勇気
   ・トレードオフを理解した上で、どちらかを捨てる勇気
   ・不完全な情報下でも必要なタイミングで決断する勇気
   ・やめる勇気、変える勇気
   ・必要ならば情を捨てて人を切る勇気
  (そのためには、メンタルタフネス、リスク管理、無私な倫理感が不可欠)
 -インサイト
   ・経営者にとって必須の頭脳型スキル(洞察力、発想、ひらめき)
   ・事業の本質を見抜き、経営課題を見る視点を変化させる
   ・日頃のクセで習得可能
     -一歩引いて本質を見る
     -二極性で発想する
     -自分が「何にはまっているか」を客観視し、あえて反対側/外側に振ってみる
     -定石は必ず壊して進化させる
     -他人の頭を使う
 -しつこさ
   ・考えるしつこさ(インサイトの源泉、他人の意見にも謙虚に耳を傾ける)
   ・実行するしつこさ(地味に実行し、長く継続する)

 [組織として結果を出す]
 -ソフトな統率力
   ・夢を掲げ、共有し、人間的魅力を持つ

○スキル習得法
 ・習得プロセスを構築し、習慣化する
 ・体験を通じて習得する

○スキルセットの使い分け
 ・経営環境に応じて、経営者として演じることが必要な役回りを演じ徹する
   -戦略型
   -人材型
   -競合優位型
   -フレーム型
   -変革型

2007年3月10日土曜日

リーダーを育てる会社 つぶす会社

大企業向けの管理職向けの本である。係長、課長、部長、事業部長、事業統括役員、経営責任者とリーダーの6つの段階とその間における転換点でどう変化していくべきかを述べている。基本的には、実務は一般社員が行い、リーダーはその成果を挙げやすい環境をどう整備していくか、彼らのモチベーションを向上させ、より質の高い成果を引き出し、成長を促すにはどうすべきか、を解説している。そして、これらのリーダー職は、一段一段経験を積み、自らを変化させ続けることで、リーダーそのものを育て、企業としてどの段階でも質の高いリーダーを確保し、永続的成長を図るために「パイプラインモデル」として設計・運用していくべきだという。


リーダーは各々の転換点で以下の職務要件を新たに習得しそれまでのやり方を捨てよという。

1.スキル(新しい責務をまっとうするために必要な新しい能力)
2.業務時間配分(どのように働くかを規定する新しい時間枠)
3.職務意識(重要性を認め、注力すべきだと信じる事柄)

第1転換点(一般社員から係長)では、仕事を「する」から他の人にうまく仕事を「させる」に変え、管理業務、コーチング、育成に意義を見出す、とある。

第2転換点(係長から課長)では、純粋な管理職となり、個人業務を離れ、係長の選抜、戦略的事項への支援が新たに加わる。

第3転換点(課長から部長)では、他の部長とのチームプレー、経営リソース確保、事業戦略と個別戦略の摺り合わせ等が求められ、3年程度の中期的視野・最先端を意識を持ち、特にリーダーとしての「熟練性」がいきなり問われる。この段階で戦略思考が欠落していたり不慣れな業務を避けたり、実務者へ介入するような事態が散見された場合、部長の資質がない証拠だとも。

第4転換点(部長から事業部長)では、様々な職務機能を統合し、損益や長期的成長の観点から全てを考え・判断すること、短期と長期のバランスを高度に保つことがミッションとなる。大きな裁量をもち、不慣れな職務分野もいきなり所掌範囲になる。これに対処していくためには、組織構造、チームプレー、間接部門の活用、利益構造の把握等が欠かせない。

第5転換点(事業部長から事業統括役員)では、他者の成功を喜べることが必須。経営リソースの配分の戦略の分析ができ、事業部長を育成し、ポートフォリオ戦略を描き、コアコンピタンスを保有できているか広い目で見極める必要がある。地域・業界・政界・慣例行事などを考慮しながら複数の事業を経営しなければならない。事業機会の探求は大きなミッションのひとつだ。

第6転換点(事業統括役員から経営責任者)では、長期的な視点と洞察力をもち、長期的成長と四半期毎の目標達成を両立させるためのしくみ開発も求められる。そして外部の変化に敏感になるとともに、個別の商品や顧客などの個別の問題から離れ、全体感を持つ必要がある。


最も大切なのは、第1転換点であると説き、以下の3つの責務が求められるという。
1.仕事の定義とアサインメント
2.部下に対するサポート
3.関係構築


リーダー選抜のための見極め方法として、成長段階(習熟→成長→変化)軸と、成果(期待以下→期待通り→期待以上)軸でのリーダーシップ育成マトリクスを活用すべきという。これに個々の候補者を当てはめていくことで、次にどのような行動を取ってもらうべきかを判断していくものだ。

興味深かったのは、どの段階においても問題のあるリーダーは、転換点での変化を拒み(もしくは変化の必要性を認識できず)自分の成功体験にしがみついて行動するために、結果として部下の仕事を奪ってしまい、求められる職務を遂行できないだけでなく、部下のモチベーションを下げ、経験の機会を摘み、部下もその下の部下の仕事をせざるを得なくなるために、パイプライン全体が淀み、機能不全に陥ってしまうという点だ。もちろん業績不振に陥り、組織は荒れ、活力を奪われるだろう。どこかで見たことのある光景かもしれない。

本書を読んで、真似すれば全て解決するほど具体化もされてはいないが、このような視点を持つことで自らの行動指針に反映できればと思う。